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2009年4月21日火曜日

自然の中の素数

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素数はスパイの世界で活躍しているだけでなく、自然界にも姿を表す。たとえば周期的に発生するセミである。特に注目に値するのが、ジュウシチネンゼミだ。このセミは昆虫の中で最長のライフサイクルをもっている。17年間待った後に、莫大な数のセミの成虫が地表に現れるのである。

生物学者を悩ませた問題は、このセミのライフサイクルはなぜそれほど長いのか、ライフサイクルの年数が素数になっていることに何か意味はあるのか、ということだった。ほかにも、13年ごとに大発生するジュウサンネンゼミがいることから、ライフサイクルの年数が素数であることには進化論的な利点がありそうだ。

一説によると、やはり長いライフサイクルを持つセミの寄生虫がいて、セミはその年数を避けようとしているのではないかといわれている。
寄生虫のライフサイクルが二年なら、セミは2で割り切れるライフサイクルは避けたいだろう。さもないと、寄生虫とセミは周期的に同時発生してしまうからだ。同様に、寄生虫のライフサイクルが三年だったとすると、セミは3で割り切れるライフサイクルは避けたいに違いない。さもないと、両者はやはり定期的に同時発生してしまう。結局、寄生虫との同時発生を避けるための最良の策は、長くて、しかも素数のライフサイクルを持つことだ。
なぜなら、17はどの数でも割り切れないから、ジュウシチネンゼミはめったに寄生虫と同時発生せずに済むからである。

寄生虫のライフサイクルが2年なら、両者は34年ごとにしか顔をあわせない。寄生虫のライフサイクルがもっと長く、例えば16年だったとすると、両者はなんと272年に一度しか顔をあわせないことになるのだ。
寄生虫がセミの戦略に対抗するためには、同時発生の頻度を高めるようなライフサイクルを持つしかない。
つまり、1年サイクルか、セミと同じ17年サイクルか。しかし、1年サイクルで17年立て続けに発生しながら生き延びるのは容易なことではない。というのも、はじめの16年間は宿主になるセミはいないからだ。一方、17年のライフサイクルを持つためには、寄生虫はまず16年のライフサイクルに進化しなければならない。つまり、進化のある段階で、寄生虫とセミとは、272年間も同時発生しなかったことになる。
(中略)
やがて寄生虫は16年のハードルに到達し、272年間もセミと同時発生できなくなって、絶滅に追い込まれた。
結果として、17年のライフサイクルを持つセミが残った。
しかし、そのライフサイクルも今や無用の長物である──寄生虫は、もういないのだから。